MIL-T-2064A

事の発端はWorkersで紹介しているメタルボタンのトラウザーでした。

いわゆる41カーキと呼ばれるトラウザーで、気に入って穿いては居たのですがやはりそこはオリジナル。

極太のシルエットに深いまた上。

だったら型紙を少しアレンジしつつ作りたいなと思ったのですが、ここでハタと、自分がこれほど有名な41カーキのスペック番号を知らないことに気付きました。

そこで、ボタンは尿素に変わっていますがほぼ同仕様のMIL-T-2064A この仕様を元に調べだしました。

その後、とある詳しい方とメールを通じて知り合い、ネットにあった画像からいわゆる41カーキのスペック番号は、MIL-SPECになる以前のP.Q.D No 19ではないかという情報をもらいました。

当然、P.Q.D No.19も探したのですが、残念ながら見つけられませんでした。

なので今回は、実物をみくらべてもほぼ同仕様のMIL-T-2064Aとその実物を参照しながらサンプル作りをしました。

早速、MIL-T-2064Aです。

1950年11月30日にMIL-T-2064から更新されたとあります。

最初に、「この仕様書はコットン・カーキ・トラウザーズの必要とする条件を明記する」とあります。

面白いのがClass1、Class2と別れていることです。

ミリタリーカーキがお好きな方ならご存知の通り、トラウザーには作りに違いがあります。

Class1はシングルニードル、つまり脇や尻ぐりがシングルステッチ。

Class2はダブルニードル、脇、尻ぐり、内股がダブルステッチのチェーン、巻き縫いになっています。

ここで思いつくのは、いわゆるトラウザーを得意とする工場であれば当然Class1を。

一方で、ワークパンツが得意な工場であればClass2を、といったように生産設備による得手不得手を解消するために、わざわざ二つのClassを設けたのではないかということです。

ちなみに、BIGYANKのReliance社がコントラクターの実物も手に入れたのですが、それはClass1でした。

確かに、もしRelianceのシャツ製造に近い設備のラインで作るとすればカーキの生地は厚すぎて巻き縫いできなかったでしょう。となるとClass1を製造したのか・・・

もしこれがLeeだったらClass2なのかな?などと想像は尽きません。

仕様書は、糸、生地などはまた別の仕様書を参照することと記載され、中盤からは製造工程の手順が事細かに記載されています。

 

今回、できうる限りの仕様は調べましたが、当然すべては調べられません。

そこで参照することができた仕様を紹介します。

V-T-276、綿糸の仕様です。

DDD-S-751、縫い目とステッチの仕様です。

後者は縫製工程で紹介します。

綿糸仕様、V-T-276はかなり昔の仕様のようで、検索で出てきたのは、より新しい仕様、A-A-52094でした。

トラウザー本体の仕様だけでなく、さまざまな部品に関する仕様まで常にアップデートはされています。

そこで、こういった場合にも迷子にならないように、このA-A-52094をV-T-276に優先して使用しても良いといったように、明記されています。

具体的にMIL-T-2064Aに使用しなさいと明記されているType 1の仕様です。

TEXという糸の太さの単位。糸の撚り、ヤード単位の重さ、引き裂き強度が記載されています。

これをMIL-T-2064Aで部分ごとに「30TEX・2本撚り」といったように指示されているのです。

現在の日本では番手という単位が使われているため、番手をTEXに換算し、できる限り近い太さ、近い色の綿糸を使用しています。

ただ、この指示はどうも腑に落ちない部分も多く、オーバーロックを70TEXという太い糸、厚みを乗り越える巻き縫いを30TEXという細い糸といったように、正直作る側からすれば首をかしげるような指示もあります。

また実物も、明らかにMIL-T-2064Aで指示されるより太い糸、細い糸で縫っている部分があります。

そこで、とあるくわしい方に伺うと「MIL-SPECはあくまで「必要条件」であり、それを越えて居れば現場でのアレンジは当然あったと考えられるのでは」という事でした。

MIL-SPECは「必要条件」。その必要を十分に満たす「十分条件」が現場では採用されていたのではないでしょうか。

次に生地の仕様、MIL-C-298です。

8.2オンスのシェイドカーキNo1、Type1に従ったものとあります。

当然、生地は表地だけではなく、スレキも参照すべきスペックがあります。

ボタンホールの芯糸、コーティングされたラベル、ベール包装という大量に塊で包装する方法までがすべて参照するスペックが記載されています。

正直、すべては調べられません。

迅速に、大量に、必要な条件を満たしたものを補給するためにはここまで事細かに規定する必要があったのだなと、今見ても驚きます。


さて、MIL-C-298は残念ながら見つけられずその改訂版、MIL-C-298Cです。

CLOTH, COTTON, UNIFORM, TWILLを規定しています。

早速、Type1を調べると、8.2オンス、縦横にコーマ糸の双糸(撚り糸)を使った生地とあります。

さらに詳しく記載された内容を見ると、オンスは最低7.9オンス〜最大8.6オンス。

縦横の打ち込み本数、引き裂き強度。

さらに織物の組織は3/1の右綾と記載されています。

ちなみに、コーマは、糸を作る段階で一度コーミングという櫛に通す作業をした糸で、下の方に書いてあるカードに比べて長い繊維がそろい、ツヤが出る、つまりひと手間かかって高い糸になります。

生地の仕上げも指定があり、毛焼き、のり抜きとマーセライズ加工。いわゆるシルケット加工を施すとあります。

シルケット加工は苛性ソーダに織り上がった生地をつけながら引っ張る加工だそうで、生地にシルクのようなつるつるした風合いを加えることができます。

これらの条件を元に生地を探すと・・・とある生地屋さんでここまで記載してきた仕様に合致したものが見つかりました。

ただ面白いというか、恐ろしいのがその生地屋さん自身はこれらの仕様を見ず実物を見て糸をほぐしたり、風合いを見たりしながらこのスペックに合った生地を作りだしてしまっていたことです。

生地の生産方法も、それぞれの工程を細かく分けるとある程度の的が絞られるそうです。

もともと、41カーキなどの生地、双糸の右綾はチノではなくウェポンと呼ぶそうですが、スペックがなくとも作ってしまう、日本の技術力を垣間見た気がしました。

 

How to make them?

 

Detail-各部詳細

 

 

Detail After Washed
各部詳細 洗い後

     

 

Look

Lot800 Lot801

 

 

 


 

Workers